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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和61年(ネ)31号 判決 1986年7月28日

控訴人(原告) 谷村孝司 外二二名

被控訴人(被告) 破産者株式会社うえの屋破産管財人近藤光玉

主文

一  本件各控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取消す。

2  控訴人らが、破産者株式会社うえの屋に対して雇用契約による雇人の給料として別紙債権一覧表中の債権額欄記載のとおりの優先破産債権を有することを確定する。

3  訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二当事者双方の主張及び証拠関係は次のとおり付加するほか原判決事実摘示と同じであるからこれを引用する。

一  控訴人らの主張

1  破産者株式会社うえの屋(以下「破産会社」という)の社長と赤帽富山県軽自動車運送事業組合(以下「本件組合」という)の理事長との間で、本件組合の組合員が破産会社の仕事(配達等の仕事)に従事する場合は一時間あたり一六〇〇円とする旨協定され、その条件を了承した控訴人らが破産会社の仕事に従事したものであり、控訴人らが個別的に契約内容を話し合つたことがなかつたこと、契約書を交わしたことがなかつたことをもつて、雇用を否定する理由にはならない。

また、労務の提供がある程度の期間継続することは雇用たるための要件ではなく、一日だけ又は何時間だけ労務を提供するという内容のものでも、労務自体を契約の目的とするものであれば、雇用契約である。従つて、長期間継続的に雇用された場合なら、その間自己の都合で仕事を断わつたり、他の仕事をすることはできないとしても、本件の如く一日単位又は数時間単位で雇用される場合は、破産会社の仕事に従事しない日は他の仕事をすることが自由であるのは当然である。但し、破産会社の仕事に従事した日は、破産会社から帰宅を許可されるまでは拘束されていたものであり、またその間他の仕事をすること(即ち、他の荷物の運搬等)は許されていなかつたし、事実控訴人らは他の仕事をしていなかつた。

2  本件契約が運送請負契約であれば、請負人の車両で運送するのが当然であり、荷主の社員を名乗ることを強制されたり、自己の制服の着用を禁止されるということはあり得ない。控訴人らの車両が小さくて家具の配送には不適当であつたとの理由で控訴人らが破産会社の車両を使用したのであれば、大型車両を有する運送会社に請負させればよい筈である。破産会社が、「寿」のマークの入つた自社の車両を使用させて自社の社員の如く振るまわさせ、自社の伝票を使用させたのは、配達する商品(家具)が婚礼にかかわるもので、イメージを大切にしなければならないとの特殊性から、運送の請負によることは不適当であると判断したからであり、従つて、逆に言えば、控訴人らは運送の請負をしたのではなく、労務の提供を目的としたものである。

二  被控訴人の答弁

控訴人らの右主張は争う。

理由

一  当裁判所も控訴人らの本訴各請求は理由がなく棄却すべきものと判断するところ、その理由は次のとおり付加訂正するほか原判決の理由説示と同じであるからこれを引用する。

1  原判決六枚目裏四行目「さらに、」の次に「右当事者間に争いのない事実に加え、成立に争いのない甲第三号証の一ないし一四、第四号証の一ないし一三、第五号証の一、二、第六号証の一ないし一七、第七号証の一、二、第八号証の一ないし九、第九号証の一ないし四、第一〇、第一一号証の各一、二、第一二号証の一ないし五、第一三号証の一ないし三七、第一四号証の一ないし五〇、第一五号証の一ないし四二、第一六号証の一ないし四、第一七号証の一ないし二五、第一八号証、第一九号証の一ないし二八、第二〇号証の一ないし一二、第二一号証の一ないし二九、第二二号証の一ないし四、第二三号証の一ないし九、第二四号証の一ないし五、第二六号証の一ないし三、第二七号証の一ないし五、第二八号証の一ないし一〇、第二九号証の一ないし八、第三〇号証の一、二、第三一号証の一ないし四五、第三二号証の一ないし四四、第三三号証、第三四号証の一、二、第三五号証の一ないし八、乙第三ないし第一一号証、」を加える。

2  同六枚目裏末行から同九枚目表一〇行目までを次のとおり改め、同末行の「六」を「五」に訂正する。

「(一) 破産会社は、呉服及び婚礼家具等の販売、婚礼衣裳の貸出し等を業とする会社であり、従来、家具の配送について自社の配送担当の社員で処理しきれないときは日本通運、トナミ運輸等の運送業者に依頼していたが、昭和五四年頃、本件組合に呉服等の小荷物の配送を依頼するようになつたことから、本件組合の理事長からの要請で家具についても本件組合の組合員に配送させるようになつた。その際理事長は控訴人ら組合員が原則として各一台の軽自動車を保有して貨物運送を業とする事業者であり、右事業者で組織する本件組合が受注あつせん、料金請求の代行等を責任をもつて行ない、各組合員も受注した仕事を一事業主として誠意をもつて処理する旨を説明したので、破産会社代表者はこれを了承した。

(二) その結果、破産会社、本件組合及び所属組合員間に、その頃、家具運送等の必要が生じた都度破産会社から本件組合に組合員の派遣要請をし、本件組合はこれを組合員に伝達して注文のあつせんをし、これに応諾する組合員が破産会社指定の日時に同指定の場所に赴き、破産会社から業務内容と遂行方法の指示を受ける。組合員はこれを受けて業務を遂行し、完了後破産会社担当者に報告し、仕事の完了と従事した時間の確認を受けて帰る。右確認は本件組合名義の領収書を組合員が提示し、これに担当者がサインする方法をとり、料金は、遠距離配送の場合は行先別定額(例えば東京は三万八〇〇〇円、神奈川は四万円、静岡は三万二〇〇〇円、埼玉は三万六〇〇〇円など)で、遠距離配送でない場合は一時間一六〇〇円と定め(勿論固定給なし)、各組合員は右サインのある領収書を本件組合に持帰り、本件組合において毎月二〇日締切で集計し、その合計金額を本件組合から破産会社に請求し、破産会社から一括支払を受けた金員を本件組合において各人の仕事量時間数に分けて配布する(源泉徴収なし)旨の基本的合意が成立した。

(三) 右の如く本件は、破産会社が運送等の仕事を発注すると、本件組合がこれを所属組合員にあつせんし、所属組合員と破産会社間で家具運送等に関する契約が成立し、その後本件組合が料金の集金業務を代行する制度であつた。従つて組合からの連絡があつても各組合員は他の仕事が入つている場合等には断わることができ、右注文に応じない自由、また注文がないときは他の仕事に従事する自由が保障されていた。もつとも破産会社としては、家具運搬の性質上、入れ替わり、立ち替わり別の組合員が派遣されると困るので、できる限り同じ人を派遣して貰いたい旨の要望を出し、組合もこれに沿つてあつせんし、一旦派遣された組合員が破産会社から直接次の仕事を依頼されるようなこともあつて、破産会社へ派遣される者は固定化の方向に向つていた。しかし指定された組合員に支障が生じたときは、その者の責任においてパートを雇つて代替派遣をすることも容認されていた。

(四) 業務内容は、主として婚礼家具、ほかに呉服類、ふとん類の配送であり、組合員単独または他の組合員や破産会社従業員と共に自動車を用いて配送する。大型の家具は破産会社保有の「寿」のマークの入つた普通貨物自動車を使用し、小型の家具及び呉服、ふとん類は組合員保有の軽貨物自動車を使用した。そして破産会社は、前者の場合には営業上のイメージアツプのため各組合員は本件組合の制服・制帽を着用せず、商品を顧客に引渡す際は、破産会社従業員の如く振る舞うことを要望していた。各組合員は、荷物を受取人に引渡したときは納品書控に受取印を押捺してもらい、また顧客が代金を支払うときはこれを受領して帰つた。右商品配送のほか、時に展示場の設営の手伝いを依頼されることがあり、従業員とともに家具を展示場まで運搬しこれを配列する仕事に従事し、中には技能を見込まれて、商品配送のほか家具のアフターサービスとしての修繕の仕事を頼まれこれに従事する組合員もいた。各組合員が破産会社に派遣された日数は、一か月平均多い者で一五・六日、少い者で四・五日程度であつた。

3  以上のとおり認められるところ、控訴人らは、破産会社の社長から日常も破産会社の社員として振る舞うよう指示され又は教育されていた、或いは仕事も完全に破産会社の指示に従つて行ない、派遣を求められた日は一日中拘束されていた旨主張するが、これに沿う原審証人神田実の証言、原審における控訴人矢合清一及び同山下善弘各本人の供述は、前記乙第一・二号証、原審証人上野照夫の証言に照らして措信できず、ほかに右事実を認めさせる証拠はない。

4  ところで当該契約が雇用契約なりや否やは契約の形式のみによらず、実質的な労務供給の実態をも総合し、それがいわゆる使用従属関係に当るか否かを基準として判断するのが相当であると解されるところ、前認定事実によると、控訴人らはいずれも軽貨物自動車を保有して貨物運送事業を営む事業者であり、破産会社からの依頼に対しても諾否の自由を有し、また労務の代替性が認められ、仕事開始の時間の指定はあるが、依頼された仕事が終れば何時でも帰宅できるのであつて、拘束時間の指定はなく、報酬も遠距離運送の場合は定額制で明らかに請負代金的な定め方をしていること、その他前認定にかかる実態に照らして判断すると、控訴人らの本件労務提供は、破産会社の指揮監督下での労働とみることはできず、むしろ指定された仕事の完成を目的とする請負契約であつたと認めるのが相当である。

もつとも、前認定によると、控訴人らが従事した仕事の中には、時間給の部分があり、また控訴人らの本来の運送業務からは若干外れる集金業務、展示会場設営、家具修理等の仕事をした者もいるが、注文者の依頼によつて引受けた臨時的な附帯業務と認められ、全体的観察のもとでは、これによつていまだ控訴人らの事業者性は失われていないと認められる。また大型家具の場合赤帽等を着用しない様指示されているが平服でよいというのであつて、特に控訴人らに負担を課す程のものではなく、また配達先の客に対して破産会社の者である旨名乗る様指示されたことも末梢的な事柄であつて、これによつて業務遂行の主要部分にまで依頼者の指揮監督が及んでいたとは認められない。軽自動車使用の場合は自己の営業であることを表示することが許されていたことは前認定のとおりである。

控訴人らは、控訴人らが破産会社の仕事に従事した日は破産会社から帰宅を許可されるまで拘束され、その間他の仕事をすることは許されず、実際に他の仕事をしなかつたから時間単位の雇用契約が成立していた旨主張する。

しかし、依頼された仕事が終れば帰宅できたのであつて終業時間の指定がなかつたことは前認定のとおりであり、控訴人らが破産会社の配送の仕事に従事した時間内に他の仕事をすることができないのは、破産会社の仕事をした時間についてのみ料金が支払われるという時間制の定めによるものというべきであり、右事実をもつて控訴人らと破産会社との間に時間単位の雇用関係が成立していたものと認めることはできない。

また、破産会社が控訴人らに「寿」のマークの入つた自社の車両を使用させたこと、破産会社の社員を名乗らせ、自己の制服の着用を禁止したこと、自社の伝票を使用させたことをもつて雇用契約の表われであると主張するが、いずれも婚礼家具を扱うという破産会社の業務の特殊性から運送契約において特に条件を付したものというべきであり、右の如き条件を付した請負契約も可能であると解されるから、右条件の存在をもつて破産会社と控訴人らとの間に使用従属関係があるともいえない。控訴人らは、右特殊性から破産会社は請負契約によることを不適当と判断したものであり、控訴人らは労務の提供を目的としたものである旨主張するが、上記判断に照らせば理由がない。」

二  よつて、原判決は相当であるから本件各控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 井上孝一 紙浦健二 森高重久)

別紙債権一覧表<省略>

原審判決の主文、事実及び理由

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一 請求の趣旨

1 別紙債権一覧表中の債権額欄記載の各債権が、各原告の破産者株式会社うえの屋に対する優先破産債権であることを確定する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二 請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一 請求の原因

1 富山市清水町四丁目一番五号所在の株式会社うえの屋(以下「破産会社」という。)に対し、富山地方裁判所において昭和五八年六月二八日午前一〇時破産宣告がなされ(昭和五八年(フ)第三六号事件)、被告が破産管財人に選任された。

2 右破産宣告当時、原告らは破産会社に対して雇傭契約に基づく雇人の給料として別紙債権一覧表中の債権額欄記載のとおり(但し、原告大畑春夫については一八万一八〇〇円、原告青井寿二については七二万〇九〇〇円である。)の各債権を有していたので、別紙債権一覧表中の債権額欄記載の額について優先破産債権の届出をしたところ、被告は債権調査期日に異議を述べた。

3 原告らは、赤帽富山県軽自動車運送事業協同組合(以下「本件組合」という。)の組合員であるところ、本件組合は、中小企業等協同組合法により設立を認可された協同組合であり、原則として一台の車両を保有して小荷物を運搬することを業とする者達で構成され、組合員の相互扶助の精神に基づき組合員の為に仕事の共同受注・斡旋を行なつたり業務に必要な物品の共同購入を行なつたりしているものである。

4(一) 原告らは、破産会社からの本件組合に対する斡旋の申込により、同組合から斡旋され破産会社の仕事に従事していたもので、同組合は、昭和五四年から破産会社の申込により組合員を斡旋していた。

(二) 斡旋方法は、本件組合が、破産会社から組合員のうちで仕事振り等で破産会社の意に添う者を指名されて派遣を求められ、それに従つて派遣していたものである。

そして、破産会社から前日位に、誰々を何時に派遣してほしいとの連絡があり、指名された者が指示された時刻に破産会社へ行き、そこで具体的に仕事の指示がなされていた。

5(一) 原告らの仕事の内容は、破産会社から指示されたとおり、破産会社の客先へ家具を運搬し、車からそれを降して搬入する仕事が主たるもので、その他には、展示会の設営の作業に従事したりもしたが、それらの仕事に使用する車両はすべて破産会社の車両(破産会社名が書かれた車両。)によつていた。

(二) そして、原告らは客先では「赤帽」の名称は一切使わず、「うえの屋の者です。」と言つて作業していた(破産会社の社長の指示によりそうしていた。)もので、納品書も破産会社のものを使用し、それに客先で受領印を押捺してもらつていた。

(三) 原告らは、日頃、破産会社の社長から破産会社の社員として振る舞うよう指示、又は教育されていて、仕事も完全に破産会社の指示に従つて行い、派遣を求められた日は、体は一日中拘束されていた。

6(一) 賃金については、出来高払いではなく、完全に時間給として定められ、一時間当り一六〇〇円となつていたもので、形式的には破産会社の社長と本件組合の取決めになつていたが、実体は破産会社の社長の一方的な決定によるものであつた。

なお、遠距離配送の場合は、一時間一六〇〇円の時間制ではなく、行先によつて定額で決められており、東京は三万八〇〇〇円、神奈川は四万円、静岡は三万二〇〇〇円、埼玉は三万六〇〇〇円などとなつていた。

(二) 賃金の計算や支払方法については、原告らが破産会社から指示された仕事を終えて帰社したときに、破産会社の社員に仕事時間の確認をしてもらつたうえ伝票に確認のサインをしてもらい、その後本件組合において原告ら各自の賃金を集計し、取りまとめて破産会社に請求して支払を受けていた。

(三) なお、以前は、賃金計算は毎月二〇日締切として翌月二五日払いが原則だつたが、その後、破産会社の指示により月四、五回に分けて請求していた。

7 原告らは別紙債権一覧表中の作業日数及び作業時間等欄記載のとおり作業に従事したが、破産会社の指揮命令の下で労務自体の提供を契約の目的として仕事に従事したものであるから、それは民法六二三条の雇用契約に該るものである。

二 請求の原因に対する認否

1 同1は認める。

2 同2のうち、原告らが破産会社との雇傭契約に基づく原告ら主張の優先破産債権を有していたこと、原告青井寿二が債権額を七一万二五〇〇円として届出したことは否認する。右原告の届出額は七一万五二〇〇円である。その余は認める。

3 同3は不知。

4 同4の(一)、(二)は否認する。

5(一) 同5の(一)のうち、破産会社の車両が使用されたことは認めるが、その余は否認する。

(二) 同5の(二)は認める。

(三) 同5の(三)は否認する。

6(一) 同6の(一)のうち、代金が一時間当り一六〇〇円という取り決めになつていたことは認めるが、その余は否認する。

(二) 同6の(二)のうち、伝票に確認のサインをしていたことは認めるが、その余は否認する。

(三) 同6の(三)は否認する。

7 同7は否認する。

破産会社は本件組合との間で家具配送に関する請負契約を締結したものであつて、破産会社と原告らとの間には何らの契約もない。

第三証拠<省略>

理由

一 請求原因1は当事者間に争いがない。

二 請求原因2のうち、原告らが破産会社に対して雇傭契約に基づく雇人の給料債権を有するとして、別紙債権一覧表中の額(但し、原告青井寿二は少くともその額以上の金額。)について優先破産債権の届出をしたこと、それに対して被告が債権調査期日に異議を述べたことは当事者間に争いがない。

三 成立について争いのない甲第一、第二号証、証人神田実の証言によれば、請求原因3が認められる。

四1 原告らと破産会社との間に雇用契約が存在したことについては、直接にそれを証する証拠はない。

2 さらに、証人上野照夫の証言によつて真正に成立したと認められる乙第一、第二号証、証人上野照夫及び同神田実の各証言、原告矢合清一及び同山下善弘の各本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められ、証人神田実の証言及び右原告ら各本人尋問の結果中左の認定に反する部分は、前掲各証拠に照らして措信できず、他に左の認定を左右するに足りる証拠はない。

(一) 破産会社は、呉服及び婚礼家具等の販売、婚礼衣裳の貸出し等を業とする会社であり、従来、家具等の配送については他の運送業者に依頼していたが、昭和五四年頃、本件組合の理事長から要請があつて、本件組合の組合員に家具等の配送をさせるようになつたこと

(二) 料金については、破産会社と本件組合の役員との間で、遠距離配送の場合は、行先によつて定額(東京は三万八〇〇〇円、神奈川は四万円、静岡は三万二〇〇〇円、埼玉は三万六〇〇〇円など。)で、遠距離配送でない場合は、一時間一六〇〇円と定め、破産会社は、右に従つて、組合員が破産会社に戻るまでの時間を確認し労働時間を計算したうえ後日本件組合の請求に基づいて右組合に対して一括して支払つていたこと

(三) 原告らは、もともと個人で運送業を営んでいる者達であり、破産会社の仕事の依頼も、自己の仕事の都合などによつて自由に断わることができたこと、破産会社は、原告らに対して、原告らが右会社以外の仕事をすることについて何らの制約も加えなかつたこと

(四) 破産会社と原告らとの間で、原告らの行なう破産会社の仕事について契約書を交わしたことがなかつたのは勿論、個別的に契約内容を話し合つたこともなかつたこと

以上によれば、原告らが破産会社の家具の配送に従事したことがあつたからといつて、それが原告らと破産会社との間の雇用契約に基づくものであつたということはできない。

五1 もつとも、前記四の2の各証拠によれば、原告らが破産会社の仕事をするときには一見して赤帽とわかるような服装をしないこと及び配達先の客に対しては「うえの屋の者です。」と名のることを破産会社から求められ、納品書も破産会社のものを使用していたこと、原告らが家具を配送する場合には主に破産会社の車両を使用していたことが認められる。

しかし、破産会社の業務内容は、前記のように主として婚礼に関わるものであつたから、破産会社が仕事の上でそのイメージを大切にするのは当然であり、しかも家具の配送に際し「寿」のマークの入つた破産会社の車両を使用したのは、原告ら所有の車両は小さくて家具の配送には不適当であつたこと及び破産会社の従業員も原告らとともにその仕事に従事することがあつたことのためでもあり(証人上野照夫の証言及び弁論の全趣旨によつて認められる。)、呉服の運搬の際には赤帽の服装で原告ら組合員の車両を使用していたこと(証人上野照夫の証言によつて認められる。)などを考慮すれば、前記の各事実は前記四の2の判断を左右するものではない(また、原告らに対しては遠距離配送の場合を除いて時間制で料金が支払われるのであるから、破産会社が、原告らが破産会社に戻つた時刻を確認するのは当然であり、時間制で料金を支払うという定めの存在が直ちに雇用契約の存在を根拠づけるものではない。)。

なお、請求原因5の(三)に沿う証人神田実の証言、原告矢合清一及び同山下善弘各本人尋問の結果は、乙第一、第二号証、証人上野照夫の証言に照らして措信できず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

2 また、前記四の2の各証拠によれば、原告らの一部の者は、家具の配送をしたついでに、破産会社の求めにより家具の配送先で展示会場の設営を手伝つたことがあつたことが認められるが、それが、破産会社と右原告らとの間の、家具の配送とは別の契約に基づくものであることを根拠づける事実は本件証拠上これを見い出すことができない。

六 よつて、その余の点を判断するまでもなく、原告らの請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

別紙原告目録、債権一覧表<省略>

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